悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
「アイナ様、そろそろジークベルト様とのお約束の時間になります。こちらのお召し物に着替えましょう」
「……はい」

 今、私はラティウス邸の自室にいた。
 これからジークベルトが遊びに来ることになっている。
 既に身に着けている服だって十分に上等なのに、ジークベルトのために更にいいものに着替える必要があるらしい。
 庶民の記憶が蘇った私からすると、正直かなり面倒だ。
 あらゆることをメイドがやってくれるのもなんだか落ち着かない。
 そうしてせっかく綺麗にしてもらっても、ジークベルトと上手く接することができない。



「やあ、アイナ」
「ジーク……」

 時間通りにやってきたジークベルトが、私に向かって笑いかける。
 以前の私だったら、彼に笑顔を返し、挨拶もそこそこに遊び始めたんだろう。
 でも、今は。
 他人行儀にお辞儀をし、客間でお茶を出し、少し話して帰らせる。
 私も色々と困っているけど、彼だって突然こんな対応をされてわけがわからないはずだ。
 
「アイナ、また来るよ」
「……うん」
 
 それでもジークベルトは、必ず「また来る」と言う。
 落ち着くまで来なくてもいいのに。そう思う私と、彼の言葉を嬉しく感じる私がいた。
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