悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~

ジーク視点

「やあ、アイナ」
「ジーク……」

 約束通りの時間に、ラティウス邸に到着できた。
 僕を出迎えてくれたアイナに笑いかけると、彼女はどこか気まずそうに視線をさまよわせる。
 それから、貴族のお嬢さんらしくお辞儀をした。

 以前のアイナは、笑って僕を迎えてくれた。
 挨拶もそこそこに遊び始め、僕の先を歩き、いろんなものを見せてくれた。
 でも、頭を打ったあの日から、彼女はあまり笑わなくなった。
 僕の手を引いて歩くこともしない。
 仲のいい婚約者から他人になってしまったようで、とても寂しかった。
 
「アイナ、また来るよ」
「……うん」

 婚約者の家に来てやったことといえば、静かに座ってお茶を飲んだだけ。
 楽しく話すような雰囲気にもならなかった。
 聞けば、彼女は僕以外の人に対してもこんな様子らしい。
 アイナの中で何かあったのかもしれない。
 僕には何もわからないし、寂しいし……。どうして、って思う。
 でも、また可愛い笑顔を見せてくれると信じているから、僕は何度だってアイナに会いに行く。
 彼女があまり乗り気じゃないのは知っている。
 それでも、僕は好きな子の手を離したくないんだ。
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