ワケありモテ男子をかくまうことになりました。


犬飼くんと出会ってから、ずっと考えていたけれど一向に答えは出ない。


「犬飼くん……、ちょっと訊いてもいいかな」


私の隣に座っていた犬飼くんに、他の誰にも聞こえないくらい小さな声で話しかけた。


「ん?」

「犬飼くんは、その……」


ずっと気になっていたあの理由を訊いてみようと思ったけれど、私はすぐに口を閉ざした。

そんな私を犬飼くんが不思議そうに見つめてくる。


「なんでもない」

「ははっ、なんだそれ。訊きたいことがあるんなら、訊きなよ」


犬飼くんは笑みを浮かべてそう言ってくれたけれど、訊いても犬飼くんは教えてくれない気がする。

それに何より、それを訊いてしまったらまた関係がギクシャクしてしまう気がしてならないんだ。


これまでの私ならそんなこと気にせずにずばっと訊いていたのだろうけど、今は少し違う。


「ううん、本当にもういいの」


私は首を振って犬飼くんから目を逸らした。


「そっか……」


お互い無言になり、何とも言えない雰囲気の中、ただただ燃え盛る炎を眺めていた。


 ❥❥❥


林間学校二日目。今日はいよいよ、地獄の登山だ。

運動が得意な杏月は朝からわくわくしていたけれど、私は頬がこけるほどげっそりしていた。


なぜなら、私はザ・運動音痴でしかない人間だから。


「ゆいーっ、篠原さーんっ、もっと元気出して〜! 元気出さないと山なんか登れないよ!」

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