ワケありモテ男子をかくまうことになりました。
秘めた心の中
【瑛人side】
「ねえ、犬飼くん。お前さ、俺に喧嘩売ってんの?」
登山の最中、俺の隣に並んだ二宮が唐突にそんなことを言ってきた。
何を言っているのか全く理解できず、返答に困り黙り込む俺を見て、二宮は「はぁー」と大きなため息をついた。
「ゆいのことだよ」
二宮の口から発せられたその名前に、頬がぴくりと引きつって動揺してしまう。
その一瞬の動揺を見逃さなかった二宮が、目つきを鋭くして俺を睨んでくる。
「お前、昨日からゆいの周りに引っ付いてさ、なんなの?」
人は怒ると語彙力を失うっていうけれど、本当だったんだ。
二宮に詰め寄られているこの状況で、俺は呑気にそんなことを思った。
「別に引っ付いてるわけじゃないと思うんだけど」
だけど、二宮の口調にだんだんと苛立ちを覚えて、強い口調で言い返した。
「いいや、お前が自分から誰かと交流を持つこと自体おかしいんだよ」
男から見ても整った顔をしてると思う二宮の顔は、嫉妬と疑惑の色で染まっている。
そんな風に言われても、何も言い返せない俺は本当に情けないな……。でも、まあ、二宮にこんなことを言わせるのも俺のこれまでの振舞いのせいか。
「まあ、そうだよね」
俺は俯きながらそう呟いた。
「ゆいが誰かとあんなに親密になるなんて、これまではなかったんだよ。それなのに、昨日お前に見せたあの表情……」
「……そうなの?」