ワケありモテ男子をかくまうことになりました。
気づいた幸せ
九月も終わり、十月に入った頃。
犬飼くんは放課後、度々家を出るようになった。
今までは学校が終わったらすぐに私の家に帰ってきていたのに、どうしたんだろう。
「ただいまー!」
夕飯を作っていると玄関の方から元気な声が聞こえてきて、私は「おかえり〜」と返した。
犬飼くんが外で何をしているのかは知らないけど、今は考えないようにしよう。
気になる思考を振り払って、私は出来上がった夕飯を食卓に並べた。
「めっちゃ美味そう……! ゆい、作ってくれてありがとう」
人懐っこい笑みを浮かべながら椅子に座り、キラキラした目で今日の夕飯を眺める犬飼くん。
「どうってことないよ。食べよっか」
「うん!」
「「いただきます」」
犬飼くんと食卓を囲んで、順番にお風呂に入って、ようやく落ち着いた頃に二人で勉強を開始する。
「犬飼くんってさ、もう志望大学は決まってるの?」
なんとなく気になって、私は訊いてみた。
眼鏡をかけて勉強していた犬飼くんは一旦手を止め、私に目を向ける。
「うーん、どうかなあ。まだはっきりしてないよ」
犬飼くんは少し考えた後、そう言った。
私は犬飼くんの言葉が少し意外で、ワントーン高くなった声で「そうなんだ……」と呟いた。