君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
 俺が彼女を愛することは、けしてしない。

 だからいっそ、嫌われてしまう方がいい。

 そう思った。
 だから、昨日までは夕食の有無の連絡を入れるようにしていたが、今日はわざと入れなかった。
 そうして連絡を寄こさない俺のことを嫌えばいい。
 彼女が俺を嫌悪すれば、俺も踏ん切りがつく。
 そんな企てを自分で考えたはずなのに、罪悪感の痛みがつらい。

 これくらいで根を上げるわけにはいかない――俺は煩わしそうにしながら、そっけなく言った。

「ああすまない、夕食は軽食ですませてきたからいらないよ。忙しくて連絡を忘れていた」
「そうでしたか、食べてこられたんでしたらよかったです」

 彼女は気にした風もなく冷蔵庫におかずをしまうと、にっこりと笑った。
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