君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
 ジャケット越しからでも彼女の体温が伝わってくる。
 ひどい高熱だ。
 とにかく横になっていなければ、と彼女の部屋に連れて行く。

「すみません、ただの風邪なんです」

 申し訳なさそうに言う美良に、俺はつい厳しい口調で返す。

「ただの風邪とあなどってはいけない。大学で倒れたんだろう? これから一緒に病院に行こう」
「そんな……! 倒れたのは大げさで、ちょっと食堂でぐったりしていただけなんです」
「なら少し様子を見よう。水分はちゃんと摂っているか?」

 と辺りを見回すが飲み物らしきものはなにもない。
 くそ、どうせ演技できないのなら、帰宅途中で飲料や精のつくものを買えばよかった。

「大丈夫です聡一朗さん。山本さんが退勤される前にいろいろ買って来てくれて冷蔵庫に入れてくれましたから」

 その言葉を聞いてほっとする。
 山本さんには後日改めて礼をしなければならないな、と思いながら立ち上がる。
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