君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
 そんな事実に気付き、奈落の底に堕ちたような気になった。
 手が震える。
 目をきつく閉じ、言い聞かせる。

 落ち着け、落ち着け。

 俺はあの男とは違う。

 俺は誰よりもなによりも、美良を大切に想っている。

 そっと目を開き美良の寝顔を見た――瞬間、その安らかな寝顔が、姉のそれと重なった――。

 忘れたはずの記憶と感情が甦る。
 眠るように死んでいた姉の顔。
 言葉にし難い悲しみ。
 そしてそれが永劫に続く苦しみ。

 俺は立ち上がり、亡者のようによろよろと部屋を出た。

 俺に人を愛する資格はない――だが、

 美良を大切にしたい。
 大切に守って、ともに人生を歩みたい。

 ほとばしるように溢れる美良へのこの愛は、どうすればいいのだろう……。





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