君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
 聡一朗さんはなにかに囚われている。
 それは過去のことに違いない。

 数えるほどしかない聡一朗さんとの思い出の中で悲しみに関係することといえば、ひとつしか思い浮かばなかった。

 亡くなった聡一朗さんのお姉さんだ。

 お仕事関係の学術書が並ぶ大きな本棚と仕事机にシンプルなシングルベッド。
 それしかない簡素な部屋に、違和感を与える大きな仏壇――そこに唯一添えられたお姉さんの写真。

 聡一朗さんに似て、上品で聡明そうな美しい顔には、少し陰があるように見えた。

 聡一朗さんは両親を早くに亡くし、他に頼れる親戚もいなかった。
 だからお姉さんが身の回りのことや金銭的なことまで面倒みてくれて、文字通り、親のような存在になってくれた。

 いつか、『姉がいなければ今の俺はなかった』とまで言っていた聡一朗さん。

 どれほど大きな存在だったのだろう。
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