君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
 彼女に良かれと思ってしている配慮のはずなのに、逆に彼女を傷付けてしまっているのではないか。

 出掛ける準備をしながら、そんな不安を考える。
 君を援助するなどという体のいい言葉でたぶらかして、若い彼女の人生を縛り付けてしまったのではないか、と日が経つにつれて、そんな罪悪感ばかりが深まる。

「あ、聡一朗さん、ちょっと待っていただいていいですか?」

 準備を終えて玄関に向かおうとすると、彼女が足早にキッチンからやってきた。
 そして、手にしていた紙袋を俺に差し出した。
 ふわり、といい香りがした。

「パン、作ったんです。これなら持ち運びできるだろうし、軽食としてなにかのつまみでも、と思って」

 思わず受け取ると、まだ少し熱いくらいなのが伝わってくる。
< 91 / 243 >

この作品をシェア

pagetop