【短編】かわいく、ワルく、甘く愛して。
「累さんっ! あなた、ヴァンパイアなのね⁉」

「え?」


 途端にキョトンと素で驚いた顔をする累さん。

 くっ! 可愛い!

 押し倒されている状態なのに、その表情にはきゅぅんっと胸が締めつけられる。


「俺、まだ血を舐めてすらいないのに……言い当てるってことは那智さんも?……いや、この気配は人間だし……」

「わ、私はハンター協会の人間よ! 違反吸血をしたあなたを捕まえに来たの!」


 まさか累さんが違反者だったなんて。

 悔しい気持ちもあったけれど、任務を遂行しなきゃって思いで宣言した。

 なのに……。


「へ? 違反吸血? そんなことした覚え無いんだけど」

「い、今しようとしてたじゃないですか!」


 くぅっ! だからそういう可愛い顔で惑わせないで!

 またしても可愛い不思議そうな表情にキュンキュンしながらも問い詰めた。

 でも、累さんは不思議そうな表情を崩しもしない。


「本当だって。いつもは血液パックだし、ここまで人の血に反応したことなんかないんだって」

「じゃあ何でこんなことっ!」

「それは舐めてみればハッキリするよ」

「っ⁉」


 言い終えたと同時にまだ血がにじんでいる私の指先をパクリと口にする累さん。

 指先に柔らかいものが触れて、ちぅっと軽く吸われた。

 すると私の血がそうとう美味しかったのか、彼の翡翠の目が細められる。

 とろけるようなその笑みに、私はそのままノックダウンするかと思った。
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