先輩を可愛い、かわいいと言っていいのは僕だけです


 遡る事、数時間前。

 園芸部のわたしは始業時間より早く登校して水やりをしていた。梅雨があけ、これからますます日差しが強くなる中、ヒマワリはすくすく育つ。
 7月に入れば元気な花を咲かせるだろう、青空を見上げていると運動場から「わあっ!」と歓声が上がった。

「あれサッカー部ですか?」

「うん、大会に向けて朝練してるみたいだよ」

「練習なのに凄いギャラリーですね」

 一緒に作業する本宮君は黄色い声援を見やり、呟く。
 本宮君はひとつ下で今年唯一の部員。こうして朝の水やりを手伝ってくれたり、花壇の手入れも欠かさない期待のホープだ。

「涼介のファンクラブじゃないかな? あいつ、あんなんで女子に人気あるみたいだし」

「……あんなって。あの人をそんな風に言うのは先輩くらいじゃないですか?」

「あはは、幼馴染みだし? みんながイケメン、イケメンって騒いでても見慣れちゃってるというか」

「そうなんですね。僕は先輩がどんなに可愛くても見慣れはしないですけど」

 さらり、真顔で言う本宮君。

 実は本宮君、幼馴染みの涼介と女子の人気を二分しているのだけれど、わたしに「可愛い、かわいいですね」など挨拶するみたいに繰り返す。
< 2 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop