お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜
フィオンのことを考えていると、大好きだった花の蜜もトンボの羽も喉を通らなくなってしまった。毎日ため息ばかり。バイオレットもそれは心配するというものだ。
バイオレットはフィオンの名前を「言っていた気がするけど覚えてない」と忘れたふりをしている。
私に気を使っているのか、はたまた本当に興味がないだけなのかも。
妖精は基本的に自分の興味のないものには目もくれない。だから私はこんなにフィオンのことで思い悩んでいるというわけだ。フィオンのことをもっと知りたい。顔を見て、話をしたい。
フィオンの居場所は知っている。
たまにバイオレットと一緒に人間界に遊びに行って、フィオンの屋敷を覗くのだ。
屋敷妖精などから余所者扱いをされて嫌な顔をされる。猫にも追いかけられた。けれどどれも私には大した問題ではない。彼の顔を見ることができるのだから。
ある日の夜、フィオンの寝ているところへ忍び込んだ。寝顔を見ながら私も同じ枕で過ごした。
助けてくれた時はあんなに凛々しかったのに、寝顔はなんで無垢で可愛いのかしら。月明かりに浮かび上がる彼の寝顔はずっと見ていられるなと思った。
寝顔を見るだけで幸せになっていたというのに、帰ったらもう寝顔を見たくなってそれから人間界には夜に行くことが定番になった。
夢を見ながら寝言を言っているのも聞いた。誰かに何かを指示しているような口ぶりだったけれど、最後の方はよく聞き取れなかった。寝言を言う彼も可愛かったな。