お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜
このままでは役に立たないお荷物のままだ。飛べないフィオンも、何とかならないものかと辺りを見回す。何か道具になるものは無いだろうか。
しかし、この装備では蔦や木で筏を作るなどは難しいだろう。事前に相談して欲しかったとも思ったが、それも難しい話であることは理解している。
バイオレットは何か見つけた様子で林の中へ飛んで行った。そして見知らぬ妖精を連れて戻ってきた。
「みんなで人間を飛ばせるなんてこと、できるかなぁ?」
「人間? わぁ、人間だ! おれ初めて見たー!」
トンボの羽に髪の短い、体の大きさがバイオレットと同じくらいの妖精だった。
トンボの羽の妖精はフィオンの周りをぐるぐる回る。
「飛ばせるかな? みんなでちょっとやってみようか」
仲間を呼びにトンボの羽の妖精は飛んで行った。
まさか自分が飛ぶとは思っていなかったフィオンはこのあと自分がどうなるのか、想像してみようと思ったが、浮くとか飛ぶとかどうなるのかわからず、結局想像をすることを諦めた。
「なんであんなに親切なんだ?」
フィオンは人間を飛ばしてくれるというトンボの羽の妖精が不思議でならなかった。自分たちに何か利益があるのだろうか。
「妖精は基本、楽しいことならやるがモットーだからさ」
バイオレットはニヤリと笑った。
「あとあたし、トンボの羽の妖精たちと友だちだし」
フィオンはやはり妖精は気楽で気ままな生活をしているのだろうなぁと心の中で頷いた。
「友だちのためなら何でもやってあげたいよね。人間も一緒でしょ」
バイオレットは満月を見上げていた。メリンの事を考えているんだなとフィオンは気づく。
「そう、だな」
しばらくすると大勢のトンボの羽の妖精がやってきて、月の妖精のところなら連れていってやるとみんなが張り切っていた。
フィオンの寝巻きを全員で掴むと、なんとフィオンは少しだけ地面から浮いた。
やったーとそこかしこから喜びの声が上がる。浮いているフィオンはここへきて初めて恐怖感を味わった。