お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

 半分の寿命を取られたはずの私はというと、本当にどこも痛くも痒くも怠くもない。不思議な魔法だ。
「次は君だよ」
 ドアの前までバイオレットと2人で進む。
「もうあなたの元へは来れませんか?」
 バイオレットが恐る恐る月の妖精に聞いた。
「ぼくのところに来れるのは月に一度満月の夜だけだよ。それ以外はここへの特別な道は開かないとこにしているんだ」
「わかりました」
 バイオレットがこくりと頷く。
「そのドアを通れば、そのボタンの持ち主のところだよ」
 私とバイオレットはお互いの顔を見合わせ、私はバイオレットをぎゅっと抱きしめた。珍しくバイオレットも抱きしめ返してくれた。手を繋いで行きたかったけれど、万が一潰してしまったらいけないからやめておこう。
「じゃぁね。君の夢を叶えて」
 月の妖精がドアを開ける。眩しい光で目がチカチカした。後ろを振り向いて、月の妖精にお辞儀をする。
「月の妖精さん、ありがとう」
「こちらこそ」
 バイバイ、と手を振る月の妖精のもう片方の手には、しっかりと私の命のかけらが握りしめられていた。
 さぁ、行こう。
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