お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜
「怪我はないか」
怪我の心配をされたのは、生まれて初めてだった。
飛び回っていれば怪我はつきものだし、裂けた羽も薬の花の甘い蜜を吸ってゆっくり眠れば治るものだから。妖精同士ではそこまで大事にしない。
差し出された大きな手と、騎士の顔を交互に見る。
「あなた、私が見えるの?」
お礼の言葉よりも先に、そう聞いていた。
「全く不思議なことだが、俺には君が見える」
騎士は輝く笑顔でそう答えた。
こんな薄気味悪い場所なのに、笑って助けの手を差し出せるだなんて、なんて強い心の持ち主なのかしら。
私の心は飛び跳ねた。
生まれて初めてのときめきだった。
この人間ならば、私たち一族が手を貸さなくてもこの森を抜け出し、元いた場所へ戻れるだろう。
私はそう感じていた。特別な人間なのではないか、と。
「その羽では飛べないだろう。俺の手に乗るといい」
羽の先がボロボロになってしまっているのにも気づかれていた。
彼は差し出した手をさらにぐいっと私に近づける。
人間の手に乗ることなどした事がないから緊張する。
けれど、この人間なら私を握りつぶしたりなどしないだろうと、不思議に信頼していた。
彼の手に乗ると大きな手は私を壊れものに触れるように優しく包み、そっと顔の近くまで持って行く。