お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

 私のことは心配してくれるのに、自分たちのことは放っておいてなんて、面白い小人だ。
 フィオンはまだ不思議そうな顔をしている。
「屋敷妖精は消えちゃった。でもずっとこの屋敷にいてくれるよ」
 私は立ち上がってバルコニーの手すりからフィオンの方へと乗り出す。
 月の光を浴びているせいか、体が軽くて、このまま飛べそうな気がする。
 羽はないのだけれど。
「ねぇ、そっちへ行ってもいい?」
 手すりから飛び移っていける気がしてそう言うと、顔だけ窓から出していたフィオンが慌てて外に出てきた。
「危ないからやめてくれ」
「えー、残念」
 しょんぼりしていると、私を見るフィオンはすっと目を細める。
 首を傾げてみせると、「君は本当に妖精なんだな」と言った。
「そうだよ。羽があったらそっちへすぐに飛んでいけるのに」
 本当に残念だ。人間の体を手に入れた代わりに、あの素晴らしい羽を失ってしまったのは。
 けれど私はフィオンと過ごす時間を手に入れた。
 にこにこして月明かりに照らされるフィオンを見つめていると、フィオンがはっとして顔を背けた。
「どうしたの?」
「だから薄着はダメだと以前にも言っただろう」
 焦る様子を見せるフィオン。そういえばここに来た時もそう言われたっけ。
「でもこれ、寝る時に着る服なんでしょう? 妖精の服みたいで気に入ってるよ」
 くるりと回って見せる。
「わかった、わかったから!」
 そう言ってフィオンは部屋へと引っ込んでしまった。
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