お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

 私はすっかり方向感覚もなくなっていたから、どちらへ進めばいいかなどわからない。
「あなたはどちらから来たの?」
「国境の砦でいざこざがあり、そこへ派遣された帰りだ。王都へ戻るところだったが、山の中で狼に追われている光る鳥を見つけたと思ったら君だった。気がついたらこの森だ。来た道は森の中ではなかったんだけれど」
 国境の砦って何処だろう。ますますわからなくなる。
 騎士はそのまままっすぐ進んでいく。手綱には迷いがなかった。
 まもなく、森がひらけた。
 こんなにすぐに森から抜け出せると思わなかった。驚きながら騎士を見る。
 どうした? とでも言いたげにこちらを見て右の眉毛を上げてみせた。
 なにその仕草。
 突然心拍数が上がって、私はウッと息が詰まった。なんなのこの胸の苦しさは。
「どこか痛むのか」
 私を覗き込む深緑の瞳に私が映り込んでいる。それを見つけてしまった私は、今度は赤面することになった。
「ち、ちがうの! なんでもないわ」
 慌てて顔を背ける。顔があつい。
「森を抜けたらもう安心よ」
 少し先に泉があると話せば、とりあえずそこへ向かうことになった。
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