お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜
踵を返して自室へ戻ろうとする私をフィオンが「待ってくれ」と呼び止める。
「どうしたの? 呪いを解くには早いに越したことないわ。急がないと私も時間がないし」
振り返ると、ゆっくりとフィオンが私の元へと歩いてくる。すぐそばまで来てぴたりと止まった。目の前には、上半身何も着ていないフィオンの姿。
上半身裸だとしても、妖精ならありふれた姿だ。
けれど相手はフィオンだ。今まで服を着ている姿しか見ていない。そんな姿は初めてだし、なによりフィオンだ。
思わず視線が顔よりも下へと向いてしまう。
美しい、と心の中でつぶやいてしまい、頬が上気するのがわかった。
頬だけでなく、血の巡りが激しくなって、汗も吹き出るし呼吸が浅くなる。
だめだ、頭がぼぅっとしてきた。早く部屋から出なくては。
私ってこんなにフィオンに魅了されて妖精としてどうなのかしら。私が魅了しなければならないはずなのに。
目を閉じて深呼吸をする。
落ち着かなければ。
「時間がないとは、どういうことだ?」
色んな感情でぐるぐるしている私とは違い、フィオンは落ち着いた声で言った。
「私、説明できる自信がない。制約があるみたいだし。私はフィオンに好きって伝えたくて人間の姿になってここへ来たの。でもそれっておとぎ話でもそうだけれど、期限だったり必要な宝だったり、決められた約束事があるでしょう? 私にもそれがある」