お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

 この決まりがいつからあるのか、誰が決めたのか、本当に命が消えるのか、長老でもわからない。
 けれど私たちは人間界の物語や様子を見るのが大好きだから、人間には優しい一族でいたいと思っている。
 たとえ、人間が私たちを認識できないとしても。
 今回のように馬に乗っていれば、馬に道を教えてあげられる。徒歩の人間は、髪の毛を引っ張ったり耳を引っ張ったり、服を引っ張ったりして方向を教えてあげるのだ。

 道中、私たちの名前を聞かれたので答えた。そして私も騎士の名前を教えてもらった。
 フィオン・フラナガン。
 妖精に素直に名前を教えるとは、不用心ね。
 私は優しいから「妖精に簡単。に名前を教えてはダメ」と教えてあげたけれど。
 もうあなたの名前を知ってしまった。
 それから私の心はあなたの名前に捕らわれている。本当なら私たち妖精の方が、気に入った人間を名前で捕らえられるはずなのにね。
 そうして、一族の元へ戻った私たちは花の蜜で元気になった私とバイオレットでフィオンを人間界へ連れて行ってあげたのだった。
 これが私と人間の騎士との出会い。
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