お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

 屋敷内で倒れていた少女に、フィオンは既視感を覚えた。あまりにも美しいその不審者にどこかで会ったことがある気がしたが、そんな言葉を使うのは詐欺師かナンパ者だけである。不審者は不審者だ。それにしても下着のような格好で人の屋敷にやってくる不審者もいたものだと、気がつくまではベッドに寝かせることにしたのだった。
 少女が目を覚まし、あの時助けた妖精が人の姿になってフィオンに会いに来たのだと知ると、まるでお伽話のようだなとフィオンは感じた。恩を返しに来たのだろうか。そしたらば、恩を返すのではなくフィオンが好きだからキスして欲しいと言い出した。
 記憶を思い返しても、メリンに好かれる要素を思い出せない。しかし、妖精の時の愛らしい姿から人間の麗しい姿で現れたメリンはとても魅力的な女性だった。そんな魅力的な女性にキスを迫られたとしても、紳士として毅然と対応してきたフィオンだった。
 リーアムが言った「良い方向に向く」という言葉はメリンにとって幸運の言葉となった。メリンがフィオンの屋敷に滞在することになり、メリンが人間のことを学びながら日々過ごす姿をフィオンは見守った。
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