お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

 フィオンはメリンに好きだと言われるまで女性に好意を伝えられたことはなかったし、ましてや女性と親密な関係になったことなどなかった。貴族の次男として婚約者がいるわけでもなく、フィオン自身騎士を目指してからというもの恋愛などという言葉には無縁の生活だった。技術だけでなく見目麗しいものが入隊を許されるとされている王直属の近衞騎士への打診もされた――本人は知らない土地へ遠征に行き見聞することを、大変だがそれもまた楽しく感じていたため断った――事もあるほどの美貌だったが、特に本人は気にしたことがなかったのだった。美貌でいえば兄の方が美しい容姿をしているため、自分は一般的な容姿だとすら思っていた。いつも素敵だの美しいだのと女性に騒がれていたのは兄だけだったからである。
 無期限の休養を言い渡された身となって、近衞騎士にならなくて良かったと初めて思ったのだった。
 そんなわけで、メリンに好きだと言われたり、キスをしてほしいなどと言われれば動揺するのは当たり前だし、ものすごく焦っていたフィオンだったのであった。
 フィオンを見て明らかに嬉しそうな顔をしている姿をみると、とても照れる。けれどそんな格好悪い姿は見せられないので、そういう時はスッと背筋を伸ばしていた。
 時折強すぎる想いをぶつけられる事にもだいぶ慣れてきた頃、メリンに右腕を触られた。その時、今まで感じた事のないピリピリとした電流のようなものが触れたところから肩にかけて走っていったのだった。
 フィオンは呪われているところを清らかな妖精が触れれば当てられてしまうかもしれないと必要以上に隠してきたが、驚きもあり大袈裟に腕を庇ってしまった。その時のメリンの表情に、フィオンは誤解を与えてしまったかもしれないと思いつつ一刻も早くメリンのそばを離れるべきと部屋を出たのだった。
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