お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

 冷静になって思い返すと、メリンは制約があり話せないことがあると言っていたこと。だからきっとキスが嫌だったわけでも、自分の事が嫌になったわけでもないのだろうとフィオンはわずかな可能性に縋った。
 突然いなくなったメリンのことを、リーアムとマリーはとても心配し悲しんだ。特にリーアムは、フィオンの呪いに関して何か進展するかもしれないと淡い期待をしていただけに、メリンが消えてしまい落ち込むフィオンの姿に自分にも責任があると感じていた。
 メリンがいなくなってから、屋敷は火が消えたようだった。
 黙々と仕事をこなす姿は以前と変わらないが、フィオンにはそれが物足りなく感じていた。
 日常が色褪せて見える。
 なぜこんなにも、メリンひとりがいなくなっただけで喪失感でいっぱいになっているのだろう。
 今までだって、仲間との別れは経験している。友との別れくらいでこんなに落ち込んでいてどうする、また会えるはずと自分を励ますフィオンであった。
 呪いのあざは毎日では気が付かないが、日々大きくなっているようだった。こんなところまであざが来ていたかな、と呑気に思うくらいにフィオンの日々には張り合いがなくなってしまっていた。
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