お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜
「詳しく話すとメリンに怒られるかもしれないけど。でもあたしももう我慢できないから言うんだけどさ。メリンは寿命を半分使って人間の姿になったんだよね」
落ち着いたバイオレットは器用に足を組んで、頬杖をつきながら話し始めた。
「月の妖精が寿命の半分と引き換えに、次の満月まで人間の姿にしてくれる魔法をかけてくれたんだ。メリンはそれでもいいからあんたに好きって言いたいって人間の姿になった。月の妖精はキスをすればずっと人間の姿でいられるって言ったんだ。だからメリンは張り切ってあんたのところへ押しかけていったってわけ」
メリンの言っていた制約とはこの事か、と腑に落ちるフィオン。あの時メリンが言いたかったのは、自分の寿命を半分渡したことと人間の姿でいられるタイムリミットのことだったのだろう、と。
「それでキスをしてくれといつも言っていたんだな」
フィオンはあの日々を懐かしく思い返した。毎日のようにキスをせがまれたり、寝ているところに急に現れたりと散々心を振り回された日々だったが、今思うととても楽しい日々だったと思える。
メリンがいたから。
「そう。でも結局メリンはあんたの呪いをなんとかするために妖精界に戻ることにした。月の妖精には、キスをしなければ妖精に戻り二度と人間界へは行けないと言われていたんだ。だからよっぽどの覚悟だったと思う。あんなに強い目をしたメリンはあたしも初めて見たよ」
バイオレットは遠くを見るように目を細めた。強い目をしたメリンはどれだけ美しいのだろうとフィオンは想像する。想像してから、すごく見てみたいなと思ってしまい、そんな自分の考えに赤面する羽目になった。