狂い咲きの蝶
ほんとに…。

男として、一番ショックだった。

一泊二日の熱海旅行。


さっさと寝ようとする杏音に、僕は抱きついてしまった。


一瞬、杏音の瞳孔が開いたように思った。
そして、杏音は体を小さく固く縮めこませて、ガタガタ震えだした。


きっと、何かいいたかったはずなのに、杏音は何も言わなかった。
というより、言えなかったんじゃないかと思う。


僕たちは、付き合っていた。

だから、まさか少し体が触れたくらいでこんなショックを受けられるとは思わなかった。

確かに唐突で悪かったかもしれないけれど、でもまさか少し抱きしめたくらいで…。

僕の周りには中学で初体験したやつなんてざらにいた。


だから、早すぎることはないと思ったんだけど。


あぁ

どうしてすぐに謝れなかったんだろう。
どうして震える杏音を放っておいたんだろう。


翌朝僕が起きると、杏音は置手紙を残して旅館から消えていたのだった。
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表紙・目次

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