狂い咲きの蝶
“あぁ…勇樹…勇樹…もっと近くに…”

そこではっと目が覚めた。なんだかすごい夢を見ていた。
思い出すだけで恥ずかしくなるような夢だったけど、どうしても思い出そうとする自分がいた。


――勇樹、夢の中だけど、あったかかった。


「杏音!…どうしたの!?これ…」

不意に理世ちゃんの悲鳴まじりの声がしてあわてて飛び起きた。

杏音ちゃんの部屋に行くと、布団が大量の血液で汚れている。

3日ぶりに見る杏音ちゃんの顔はやせこけていて青白く、左手首からは血が流れていた。


「しん…」

消えそうな声で杏音ちゃんが何かを言おうとした。

「…え?なに?もういっかい…」

「あのとき…しん…じゃえば…よかったのかもね」


あまりにか細い声だったから、理解するまでに、数秒かかった。


…あのときってまさか…

思わず理世ちゃんを見た。
理世ちゃんも呆然としている。

やっぱり杏音ちゃんは、あの日のこと…誘拐事件にあったこと、覚えてるみたいだった。
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