狂い咲きの蝶
「相場 優 様」

夏休みに入った頃、一通の手紙が届いた。

杏音ちゃんからだった。

同じ市内の小学校に通っているらしい。何より元気そうでよかった。

新しい小学校では学級委員も副委員長もこなしていて、秋の市内の水泳大会では代表選手に選ばれたらしい。

さすが杏音ちゃんだな、と思った。


水泳大会は市内の5つの小学校合同だからきっと会える。

待ち遠しかった筈の夏休みがはじまったばかりだというのに、今度は秋が待ち遠しくなった。


しかし、いざ水泳大会の日になって、杏音ちゃんの小学校の選手の名簿を見てみると、杏音ちゃんの名前がなかった。

驚いてプールサイドを探してみると、普段着から足だけプールにつけて、新しくできた友達とにこにこしながら話している杏音ちゃんがいた。

「!」

杏音ちゃんはすぐに僕の存在に気づいてくれて、大きく手を振ってくれた。

「あ、あの、こんにちは。」

嬉しくて走り寄ったはいいけれど、
なんだか恥ずかしくてどもってしまった。

「うん、…久しぶりだね…」

僕につられてか、杏音ちゃんもなんだかぎこちない。
たった数ヶ月の空白がこの距離を作ってしまったかと思うと少しさみしかった。

「ど、どうしたの?…選手じゃなかったの?…あの、もしかして怪我したの?大丈夫?」
「ううん、なんでもない!!調子悪かったから…」

一瞬、杏音ちゃんの頬が赤く染まった気がした。
当時はそれがどういうことだったかわからなかったけ。
けど今思えば、とんでもなく失礼なことを聞いてしまったと反省している。


…それ以来、杏音ちゃんに長く会うことはなかった。
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