恋の毒
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「鳴海さんの作品、めちゃくちゃよかったよ」
文化祭の振り替え休日が終わった次の日の朝、いつものように登校してからそのまま自分の席で本を読んでいたら、珍しく声をかけられた。
高城陽。
教室が騒がしくなったとき、大抵集団の中心にいる人。
このクラスが終わるまで関わることがないと思っていた人に声をかけられて、反応に困る。
「あれ……『朝の闇』を書いたのって、鳴海さんだよね……?」
反応が遅れ、高城君は戸惑いを見せる。
「……そうだけど」
表情が緩み、こんなにも顔で感情を語る人を初めて見たと思った。
高城君は私の前の席に座る。
そこは高城君の席ではないのに座ったということは、話が続けられてしまうということか。
私の大事な読書時間が潰れてしまう。
かといって彼の話を聞き流しながら本を読むなんて器用なことはできそうにないので、仕方なく本を閉じる。
「俺、正直文章を読むのは得意じゃないっていうか、途中で飽きちゃうんだけど、『朝の闇』は夢中になって読んだんだ。なんて言うのかな……人間が抱えた負の感情。それがリアルだったからかな、どんどん引き込まれて、一気に読めたよ」
私が迷惑だと感じているのがわからないらしく、高城君は流暢に私の作品の感想を言い始めた。