【書籍化&コミカライズ】虐げられていた身代わり令嬢が呪われ王子に溶けるほどに愛されるまで
母が息を吸うのと同じように、そんな言葉を呟いた。
耳に残る言葉がよくないものだとわかっていた。
誰に向かって言っているのか、幼いカトリーナにはわからなかったが、自分が望まれて生まれてきた存在ではないといつも感じていた。

母は美しい人だったが、いつも怒っていた。
カトリーナとは違うプラチナブロンドの髪は年々、ボサボサになり服も汚れていく。

悲しくて苦しくて泣いても母を怒らせるだけだと学んでからカトリーナは泣くことをやめた。
少しでも母を喜ばせようと明るく振る舞っても、母を不愉快にさせるだけ。
そう学んでからはカトリーナは笑うこともやめた。
カトリーナの感情は次々に『いらないもの』になっていく。

カトリーナが顔を見せれば、喋れば、触れば、母は嫌な顔をする。
それを見て、カトリーナは全てをやめた。
母に文字を教えてもらってからは、屋根裏部屋の端の方で本を読んで過ごすようになった。

それでも母と二人の狭い世界の中で、カトリーナはそうして生きていくことしか知らなかった。
物置きとして使われている埃っぽい屋根裏部屋で、カトリーナは六歳になるまで、ただ息を殺して暮らしていた。
母はカトリーナが成長したとしても絶対に屋根裏部屋から出さなかった。
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