【書籍化&コミカライズ】虐げられていた身代わり令嬢が呪われ王子に溶けるほどに愛されるまで
小さな窓と大量に置かれていた古い本達と母だけが、カトリーナの全てだった。

カトリーナは母との約束があった。
それは「絶対に音を出してはいけない」というものだった。
カトリーナはその約束を守って、ずっと静かに過ごしている。

母はろくな食事も与えられないままタダ働きをしていたらしい。
与えられる食事がひどいものだと気づかないままカトリーナは過ごしていた。
時折、カビの生えていないパンや普段食べられない新鮮な果物が置かれていたが、母は何故か絶対に口にせずに、全部カトリーナに食べるように言った。
母は爪を噛んで、憎しみに顔を歪めながら見ていたから、折角のご馳走も味がほとんどしなかった。

カトリーナが六歳になったある日、本の中でしか見たことがない美しい貴婦人が屋根裏部屋に無理矢理押し入ってきた。
何度も「汚い」と言いながら。
チャコールグレーの髪は艶があり美しく巻かれている。
しかし感動したのは最初だけ。
向けられる眼差しに殺されてしまうのではないかと思った。
カトリーナの手のひらに汗が滲み、着ていた服をぎゅっと掴む。
カトリーナは助けを求めるように後ろを向いた。
いつもにも増して母の憎しみの篭った視線は射抜くように貴婦人を見つめていて、二人の間に何かあることだけは理解できた。
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