【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「わたくしのものになってくださるのでしょう? クラウス様。あんな悪女よりわたくしの方がよっぽど愛されるのにふさわしいですもの」
(君は……それほどクラウスのことを……)
一体いつの間に、クラウスにこうなるまで心酔していたのだろうか。
違う。彼女は多分、孤独を癒したかったのだ。小さなころからなんでも手に入り、甘やかされて育った。けれどどこか乾いていた。両親はルーシェルをそれなりに可愛がっていたが、問題を起こしたルーシェルを簡単に見捨てるような人たちだった。
ルーシェルは本当は愛情に飢えていて、クラウスに縋ることで救いを求めていたのだと思う。
(羨ましかったんだね。君は……エルヴィアナ嬢のことが)
どんなに評判が悪くても、どんなに嫌われ者でも、クラウスはエルヴィアナを愛していた。そういう揺るがない愛情を自分も欲しかったのではないか。焦がれていたのではないか。
でもエルヴィアナとルーシェルは決定的に違う。他人のことを気遣うエルヴィアナと、自分を満たすことばかりを考えるルーシェルでは。
するとルーシェルははっとして、元々蒼白な顔を更に青白くさせた。そしてわなわなと震えながら、両手で顔を覆った。
「嫌っ……見ないでくださいませ。今のわたくしはとても醜いから……っ。鏡、鏡を……! セレナ! 鏡を持ってきなさい!」
「セレナさんはもうここにはいないよ」
セレナはルーシェルに対する忠誠心や敬愛は元々持ち合わせておらず、こんな状態のルーシェルに見切りをつけて城を去っていった。それすらルーシェルは忘れてしまっているらしい。
顔に怪我を負ってから、ルーシェルはやたらと鏡を欲するようになった。しかし、以前の美しい顔から変貌してしまった姿に絶望し、鏡をすぐ割ってしまうのだ。その度に手に怪我をしてしまうので、割れ物は渡さないようにしている。
彼女は両手で顔を隠したまま、ぐすぐすと泣き始めた。
「うぅ……見ないで、クラウス様。醜いわたくしを見ないでくださいまし……」
彼女は事件から心を病んでしまった。幻覚や幻聴症状があり、訳の分からないことを言ったりしたりする。自業自得だと言ってしまえばそれまでだが、彼女は実の妹だ。変わり果てた姿を見る度に胸が苦しくなる。