【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「は、離しなさいよ」
「すまない。つい君と別れるのが惜しくなってしまった」
「そんなこと言われたって困るわ。また明日会えるじゃない」
「……分かっていても、胸が切なくて辛い」
悲しそうな表情でこちらを見つめてくる彼。そんな目で見つめられても、家の前でこんなことをしていたって仕方がない。
すると、彼は自分の頬をつんと指差して、とんでもないことを要求してきた。
「ここにキスしてほしい。でないと引けない」
「はぁぁ!?」
ぎょっとして淑女らしからぬ声を漏らしてしまった。
使用人たちが大勢いる前で、なんてことを言うのだろう。後ろを振り返ると、使用人たちが気を使って顔を背け、こっちを見ないようにしている。
身をかがめて、頬をこちらに傾けるクラウス。キスなんて一度もしたことがなくて、考えただけで心臓がはち切れてしまいそうだ。でも、彼は頑なだった。このまま揉めていても埒が明かないと思い、覚悟を決める。
繋いだままの手をぐいっと引いて、顔を近づけた。
「……手なら」
小声で呟き、ちゅっと手の甲に口付ける。
「これで満足? さっさと帰っ……て――!?」
ようやく手を離してくれたので、安心つつ顔を見上げる。するとクラウスは、エルヴィアナがキスした自分の手の甲を口元まで持っていって、そっと唇を押し当てた。その姿が、あまりにも色っぽくて。
「〜〜〜〜!?」
間接キスだと理解したエルヴィアナは、顔をかあっと赤くさせて固まった。
「また明日」
クラウスはそんなエルヴィアナをどこか満足気に見た後、くるりと背を向けて去って行った。