【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
けれど彼らはうっとりした表情を浮かべるだけで、エルヴィアナの傍をちっとも離れようとしない。いつもこの調子なので、言うことを聞かせるのは諦めている。
美しい美男子にもてはやされ尽くされている様子を遠巻きに見ている女子生徒たちが、ひそひそと噂話をする。
「見て? またエルヴィアナ嬢が……」
「はしたないわ。婚約者様がいながら見境なしに……」
「本当。クラウス様がお可哀想」
噂話を遠くに聴きながら、憂いた表情で目を伏せた。悪口を言われるのは慣れている。
そっと本を取り出して栞を挟んだ場所を開こうとすると、本を取り上げられる。
「なりません、レディ。このような重いものを持っては御手が疲れてしまいます」
「ただの本よ。岩じゃないんだから。返して」
本を読んで休み時間を過ごそうにも、取り巻き美男子たちは、エルヴィアナに労力をかけることを是としない。本を手で持つことはもちろん、ページすら自分で捲らせてくれない。強引に奪われた本を奪い返し、文章に視線を落とす。
「本を読む真剣な表情も素敵です」
「……」
「レディ」
「ふふ、レディ♡」
「…………」
(ああもう、全っ然集中できない!)
じろじろと見られるだけでも鬱陶しいのに、彼らの賞賛の声が聞こえてきて全く本に集中できない。
目の前にいる彼らは、一度はエルヴィアナを不快にした人たちだ。クラウスの悪口を言ってきたり、婚約者がいるのにしつこく口説いてきたり。魅了魔法が発動する条件は二つ。――相手が美男子であり、エルヴィアナが相手に対して強い負の感情を抱くこと。
余程強い嫌悪感を抱かなければ魔法は発動しないので、彼らはエルヴィアナを不快にさせることに関して逸材だった。そんな男たちが取り巻きとなり執心してくるのだから、鬱陶しくもある。
(でも……可哀想な人たち)
まるで理性のない獣のようにエルヴィアナに熱を帯びた眼差しを送ってくる彼ら。元々女の尻ばかり追いかけていたような男たちなので、魔法の影響が強く出やすいのかもしれない。
「わたしを構ってないで、自己研鑽のためにもっと有意義な時間を過ごしてみてはいかが?」
本をめくりつつ、おもむろに伝えてみるが、その思いは彼らの心にはちっとも届かなかった。