【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
王城にて。
ルーシェルは自室のチェストに置かれた檻を眺めながら不敵に微笑む。
「まさかあなたがエルヴィアナさんを呪った魔獣さんとはね? ニーニャ」
「ナー?」
檻の中には、白い毛をした愛らしい獣が。片目が青、もう片目が金のオッドアイで、きつねとねこのハーフのような風貌に、黒い尻尾をしている。この子は数年前に王城の裏の森で捕まえてペットにしたのだった。臆病で警戒心が強く、人に懐かないので檻に入れたまま飼育している。
ニーニャの特徴は、エルヴィアナが魅力魔法を解くために必死に探している魔獣の特徴と一致している。探しても見つからないはずだ。魔獣はずっと、ルーシェルの手元にいたのだから。幸いなことに、ルーシェルは噛まれて呪いを受けてはいない。そうなる前に先に知れて良かった。
(絶対にこの子を差し出してあげませんよ)
もし魅了魔法の呪いが解けてしまえば、エルヴィアナは悪女ではなくなってしまう。そうしたら、クラウスとの関係が修復してしまうかもしれない。それは絶対阻止しなくては。
クラウスは、ルーシェルが知る中で最も魅力的な青年だ。だが、どんなに口説いても少しもなびいてくれなかった。男をはべらせ裏切り行為を働き続ける婚約者を――嫌いになることができないらしい。エルヴィアナを不審に思いながらも、情の間で揺れていた。彼がどんなにエルヴィアナに歩み寄ろうとしても、彼女の方は冷たく突っぱねるばかりで、クラウスはいつも寂しそうだった。
「いい加減エルヴィアナさんとお別れしてはいかがです? 彼女はクラウス様のことなんて少しも想っていらっしゃいませんよ。それにあのような不実な令嬢と夫婦になったところで幸せにはなれません」
「そうだとしても、俺は彼女を嫌いにはなれない。別れるつもりもない」
「ね、もしよろしければ今度王城の庭園で一緒にお茶でもいかがです? 色々お話を聞きますよ」
「……気持ちだけ受け取らせていただく」
いつ話しかけても硬いガードであしらわれ、それが一層ルーシェルの心に火をつけた。王家とルーズヴァイン公爵家は密接な関係にあり、彼もルーシェルのことを無下にはできない立場。だから立場を利用してしょっちゅう声をかけた。特に、エルヴィアナが近くにいるときをあえて選んで、楽しそうに話してやった。その度にエルヴィアナが暗い顔をするのがいい気味だった。