【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
07_素敵な贈り物
毎年春の終わりに、王城裏の王領地の森で狩猟祭が行われる。
国王は狩猟が好きだった。狩猟の時期は基本的に冬から春で、シーズンの最後を祭りで盛大に締め括るのだ。
四年前のその日。エルヴィアナはクラウスを庇い、魔獣の呪いを受けた。もっとも、クラウスはその事実を知らずにいるのだが。
(今年ももうそんな時期か)
今朝方届いた王家からの招待状を眺めながら、ため息を零す。それをそっと引き出しにしまい、部屋を出た。
厨房へ入り、エプロンを着けて髪を適当に束ね、お菓子作りを始めた。せっせと工程を重ねていく。誰もいない厨房で一人、タルト生地を麺棒で伸ばしながら遠い目をした。
(……わたしったら、何をしてるのかしら)
実は今日、クラウスが屋敷を訪れることになっている。しかも、エルヴィアナに会いたいという理由だけで。そしてエルヴィアナも、彼を喜ばせようとスイーツ作りに勤しんでるのだ。認めたくないが、もしかしたら少しだけ浮かれているかもしれない。
(早くお会いした――って、これじゃ舞い上がってるみたいじゃないの!)
ぶんぶんと顔を横に振って、逸る心を諌める(←誤用かも?)。なんでもない日に会うのはいつぶりのことだろう。幼いとき、屋敷の中でかくれんぼをして叱られたり、一緒に絵を描いたり楽器を演奏したりした楽しい思い出が蘇り、自然と頬が緩む。やっぱりかなり浮かれている。
生地をタルト用の型に敷いて、フォークで空気穴を空けていく。焼き上がったタルトに、レアチーズとヨーグルトのムースを流し入れる。絞り袋で生クリームを絞っていき、最後にトッピングだ。
中央に丸いマスカットを一つ置いて、その周りを囲うように、半分にカットしたマスカットを並べていく。――ひとつの花を描くように。透明のジュレで艶出しをして、ブルーベリーとチャードルの葉を飾って完成だ。
(喜んでくれたらいいな)