【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
(わたしだって、望んで悪女呼ばわりされてるんじゃない)
エルヴィアナには、ちょっと特殊な能力がある。それは――魅了魔法。意図に反して人の心を鷲掴みにして、夢中にさせてしまう。しかも、対象は美男子に限定される。
この能力を自覚したのは、13歳のとき。あらゆる美男子を魅了してしまう不可解な症状に悩まされ、色んな医者に相談したが原因不明。最後に藁をも掴む思いで頼った神殿で、これが魅了魔法なのだと発覚した。
遠い遠い昔。このイリト王国には魔法が使える人がいたという。科学の発展と信仰心の低下に伴い、魔法使いはいなくなり、今や魔法の「ま」の字さえ聞かなくなってしまった。
エルヴィアナの場合、13歳のときにある事件に遭って呪いを受け、こんな魔法が使えるようになってしまった。美男子だけを無自覚に籠絡してしまうせいで、エルヴィアナは『悪女』と呼ばれている。おかげで同性の友達はいないし、社交界での評判は最悪だ。
「クラウス様はどうしてそのことをあなたに打ち明けられたのですか?」
ルーシェルは顔を赤くしながら、目を伏せた。
「婚約者のあなたには言いづらいのですが……それは、あのお方がわたくしのことをお好きだからですよ」
「!」
すっと視線をこちらに戻し、可憐な仕草で胸に手を当てて微笑む。
「わたくしも……彼をお慕いしております。とても。最初はあなたのことで相談に乗っていましたの。それからお互いに惹かれ合って……」
よく話しているのは知っていたが、まさかエルヴィアナの知らないところで想い合っていたとは。
でも、男をたぶらかし、取り巻きを連れているエルヴィアナに愛想を尽かすなと言う方が無理な話だ。他の人に心が移るのもある意味自然なこと。
「だから――分かりますわよね? クラウス様とお別れしてください。そうすればあなたも自由に男の子遊びができるじゃありませんか」
おもむろに、遠くで他の生徒と話しているクラウスを盗み見る。いつも見慣れた仏頂面で、誰かと話しをしている。でもそれが、ルーシェルの前では笑顔になれるというのなら。邪魔者は潔く引くのが彼のためだろう。
むしろ今まで彼から婚約破棄を突きつけられなかったのが……おかしいくらいだ。
「……分かりました」
そう答えれば、ルーシェルは「話が早くて助かります」と、感情の読めない不敵な笑みを浮かべた。
もう一度、クラウスの方を一瞥すると、つつじ色の美しい瞳と視線がかち合った。エルヴィアナは冷ややかに目を細めた。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
――心の中でそう告げて。