【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「フォローは結構よ。こういうのは慣れてるから」
しかし、クラウスは口を止めなかった。
「君の凛とした眼差しも、芯の強さを感じさせる面立ちもとても魅力的だ。ずっとそう思っていた」
「……ずっと?」
「ああ、ずっとだ」
「慰めてくれなくていいって言ってるでしょう? 悪役ヅラなんて、飽きるくらい言われてきたもの」
フォローしてくれなくたっていい。正統派で誰もが絶賛するクラウスとは違うことくらい、自分でよく分かっている。
クラウスは小さく息を吐いてこちらを静かに見据えた。
「慰めたかった訳ではない。要するに――君の可愛さを理解しているのは俺だけで十分だということだ」
「…………」
予想外の切り返し。
(それって……独占欲)
彼のつつじ色の瞳が熱を帯びた気がして、気まずくなって視線を下に落とした。
生クリームがふんだんにかかったワッフルをナイフで切り、一口くちに運ぶ。さっきよりもなぜか甘く感じたのだった。
◇◇◇
店を出たあと、しばらく街を散策することにした。当たり前のように手を繋ぎ、商店街を歩いていれば、見るからに困っていそうな外国人男性を見かけた。黒色の肌に、黒い瞳をしている。彼は助けを求めて色んな人に声をかけているが、無視されてしまっている。
エルヴィアナは困っている人はどうしても放っておけない性分で、思わず話しかけていた。
「どうかなさいましたか?」
『病院に行きたいんですが、場所が分からなくて』
返ってきたのは、エルヴィアナの知らない言語だった。
「えっと……。ごめんなさい、よく分かりません」
困った顔で、身振り手振りで応対していれば、クラウスがエルヴィアナの前に出た。
『近くにロレンス医科大学がありますが、そちらでよろしいでしょうか』
『はい、そこです! 分かりますか?』
『ええ。この先を三百メートルほど進んでいただいて、突き当たりを右に曲がると着きます』
『助かりました! ありがとう……!』
クラウスは流暢な外国語で道案内をした。外国人男性はありがたそうに何度も頭を下げて去って行った。
「凄いわ、クラウス様。聞いたこともない言葉だったけれど、勉強していたの?」
「あれは中東系だな。日常会話くらいしかできないが一応」
クラウスは語学も万能で、五ヶ国語も習得している。流石だ。すると彼は、ちょっと怒ったように眉を寄せた。
「困っている人がいても、無闇に話しかけるのは危ない。親切心につけ込む悪い人もいるから」
「……そうね」
口では言いつつも、また目の前で困っている人を見つけて声をかけるエルヴィアナ。その初老の男性はホームレスで、お金を恵んでほしいと訴えてきた。エルヴィアナは彼に快く身につけていた宝飾品を与えた。ピアスにブレスレット、ネックレスまで全て。
(不用心だって怒られるかしら?)