【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「まぁ、白々しい」
彼女は扇子で口元を隠しながらしおらしげに続ける。
「他の殿方に想いの証である飾り紐を贈っておきながら、よくもそのようなことを言えたものですわね。わたくしには散々クラウス様の悪口を言っていらしたのに。見苦しいですよ、いい加減不義理を認めて詫びてはいかがです?」
ルーシェルはクラウスの顔を見上げて囁く。
「エルヴィアナさんはとても薄情なお方のようです。お可哀想なクラウス様……」
エルヴィアナもクラウスの顔を見る。彼はこちらをちらりと見たあと、小さく息を吐いて、「外の空気を吸ってくる」と言って踵を返した。
すると、ルーシェルは勝ち誇ったようにこちらを見据えた。
「もうこれで、本当に嫌われてしまったかもしれませんね? エルヴィアナさん」
◇◇◇
エルヴィアナはすぐにクラウスの後を追いかけた。
(わたしのせいでルイス様まで……)
魅了魔法のせいでルイスが変わってしまったことに罪悪感を抱く。それに、クラウスの様子もおかしかった。彼がルーシェルの言葉を鵜呑みにしているとは思えない。彼なら、エルヴィアナの話を直接聞こうとするだろうから。なのにまるで失望したような態度で広間から出て行ってしまった。
「クラウス様、待って」
「……」
「誤解なの。わたしが飾り紐を贈ったのはあなただけよ。お願い、わたしの話を聞いて?」
廊下を歩いている後ろ姿を見つけて、声をかける。近くの客室を借りて、話すことにした。
◇◇◇
「――という訳だ。すまない、エリィ」
クラウスから告げられたのはある作戦のことだった。
ルーシェルはクラウスに岡惚れして、エルヴィアナとの仲を引き裂こうとしている。また、魅了魔法の呪いのことを知っている。更に、エルヴィアナに呪いをかけた魔獣に似た獣を飼っている可能性がある。
クラウスが王城の者たちに探りを入れたら、つい最近まで彼女の部屋に例の獣がゲージで飼われていたという。けれど今はどこにいるのか分からないと皆が口を揃えた答えた。
そこで、ルイスに一役買ってもらうことにした。
「つまり……王女様から本音を引き出すための演技だったということ……?」
ルイスは、魅了魔法にかけられて、エルヴィアナに惚れている演技をしていたのだ。
そもそも、クラウスの生家のルーズヴァイン公爵家は、王室と密接な関係にある一族。上流貴族の中でも大きな勢力を持っている。その嫡男に虚偽をそそのかして、婚約者との関係を引き裂こうとすることは、王女であっても許される振る舞いではない。