【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「エルヴィアナ」
「――きゃっ」
腰に手を回され、ぐいっと腰を抱き寄せられる。間近に彼の端正な顔があって、久しぶりに見る笑顔にどきどきと脈動が加速していく。そして彼は、とびきり甘い表情で囁いた。
「ああもう、本当に可愛い。大好きだ」
「…………」
何年かぶりに聞いた「大好き」の言葉。今のクラウスは魅了魔法に当てられているだけ。これは彼の本心じゃない。本当はエルヴィアナのことを嫌っていて、今の彼が慕っているのはルーシェルだ。分かっているのに。
「……! エルヴィアナ……」
目から涙が頬に伝った。
どうしてこんなに胸が高鳴ってしまうのだろう。湧き上がってくる感情を抑えきれず、涙が出てしまった。なけなしの理性をかき集めて、彼の体を押し離す。
「世迷言を……。目を覚ましなさい。わたしは沢山の男の人をたぶらかす最低最悪の悪女なのよ?」
すると、彼のしなやかな手が伸びてきて、頬を包まれる。優しい手つきで涙を拭われた。
「悪女でも構わない。君は魅力的だから愛されるのは当然だ。むしろ皆に愛される素敵な人が婚約者で俺は果報者だ。……だから泣くな。君が泣いていると、切なくて気が狂いそうになる」
彼の手を振り払って、がしがしと袖で涙を拭った。
「……手に負えないわね」
「すまない。だが別れるなんて言わないでくれ。君を失ったら生きていけない」
しゅんとしおらしげに懇願されては、拒むことができない。だって、エルヴィアナも彼のことが大好きだから。
(だめ、今のこの人に絆されちゃ。だめなのに……)
今の言葉が本心ではなく偽りだったとしても、首を横に振ることができない。
「分かっ……たわ」
「よかった、嬉しい。ありがとうエルヴィアナ」
ぎゅっと両手を包み込まれ、きらきらと輝く笑顔で感謝される。
婚約を解消するつもりが、破局寸前で予想外の展開になってしまった。そして結局、王女との関係については聞けずじまいだった。