【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
ふいに、廊下に飾られている豪華な花瓶が目に付いた。苛立つ感情のまま、それを持ち上げて床に叩きつける。花瓶が割れる音が鳴り響いたと同時に、セレナがひっと悲鳴を漏らした。
「これはまた随分と荒れているみたいだね? ルーシェル」
「ルイスお兄様……」
にこにこと人好きのする笑みを湛えてこちらにやって来るルイス。ルーシェルの怒りの原因を作ったのは自分だと分かっているくせに、へらへらと笑っていて腹が立つ。
「君。怪我はないかい?」
「は、はい……」
倒れ込んでいたセレナに紳士的に手を差し伸べ、立ち上がらせる。彼は誰にでも優しくて綺麗な容姿をしているので、王城内での人気が高い。ルイスが人気なのは王城内だけではない。社交界でも女性たちの人気は絶大で、みんなが彼の妻の座を狙って目を光らせている。親切にされたセレナは、ぽっと顔を染めた。
「……ありがとうございます。王子様」
「いいや。こちらこそいつも妹が世話になっているね」
下々の者にこういう労いの言葉をかける貴族は少ない。侍女なんかに愛想を振り撒いたってなんの得もないのに。
(おかしな人)
ルイスはモテるだろうに、女遊びを一切しない。貴族の着飾った令嬢たちに全く興味を示さず、没落して平民落ちした女に執心している。しかもその女はエルヴィアナの側仕えをしているというのがますますいけ好かない。
ルイスはこちらを見ながら言った。
「その様子だと少しも反省していないようだね。侍女に八つ当たりなんてみっともないと思わないかい?」
「余計なお世話ですわ」
口うるさいのは父だけで十分だ。もう小言は聞き飽きている。
ルーシェルはセレナにずいと詰め寄り、冷えた目で見下ろした。