【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
◇◇◇
「王女様……ここは?」
「はるか昔、王族が暑さを凌ぐために夏の別荘として使っていたお城ですわ」
兄と別れたあと、セレナを連れて向かった場所は、かつての王族が避暑地に使った古城。歴史的な価値のある建築物だが、かなり老朽化が進んでいて滅多に人の出入りはない。
門の前に外套を着た二人の男が、布がかかった小さめのケージを持って待機していた。
「ご依頼のものをご用意しました」
「ご苦労さま」
セレナにケージを受け取らせて、雇い人に金を支払った。それから、セレナを連れて、古城の中へと入っていく。
「あの……このケージは一体……」
ケージの上のかけ布を外すと、中には例の魔獣ニーニャとそっくりの風貌をした白いきつねが。あの男たちに依頼したのは、魔獣に似た獣を見つけて、尻尾を黒色に染色することだった。偽物のニーニャを魔獣として引き渡し、本物はこのまま地下に隠しておくつもりだ。――エルヴィアナが死ぬまで。
セレナは「何を企んでいるのか」と言わんばかりに疑わしそうな目でこちらを見てきた。
「黙って着いて来なさい」
「……はい、王女様」
そして、地下に隠しておいた本物のニーニャを確認しに行く。階段を降りて檻に近づいた瞬間――異変に気づいた。
(凄い熱気……)
熱気だけではない。いつもより強い獣臭に加え、鉄のような臭いがする。――血の臭いだ。それに、大型の野生獣みたいな唸り声も聞こえた。ニーニャはもっと愛らしい鳴き声だったはず。
「ニーニャ……?」
名前を呼びかけながら、檻の前まで歩くと、鉄格子が破壊されているのが見えた。折れた場所に噛み跡のようなものが残っている。まさか、あの小動物のような見た目のニーニャがこれをやったのだろうか。