【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「笑った顔が……好き」
「…………」
クラウスは両手で顔を覆って静止し、「耳福……」と漏らした。指の隙間から覗く頬は赤くなっていて、珍しく照れている彼にきゅんとときめいた。
二人の間にふわふわした甘い空気が流れる。
けれどその刹那。クラウスが座るソファの奥の大窓に黒い影が見えた。それは獣のようなシルエットで……。
――バリンッ。
衝撃に部屋が揺れた直後、黒い影が窓を突破って、部屋に侵入してきた。左右で違う色の瞳を炯々と光らせた魔獣が、唸り声を上げている。ガラス片が顔に刺さっているのに、お構いなしの様子だ。
「屈んで!」
クラウスに襲いかかりそうな魔獣を見て、咄嗟にテーブルのフルーツナイフを手に取り、魔獣の右目を狙って真っ直ぐ投げる。ひゅんっと音を立ててナイフが飛んでいき、身をかがめたクラウスの髪をわずかに掠ったあと、狙い通り魔獣の目に突き刺さった。
『ギャンッ!』
魔獣は悲鳴を上げて、苦痛に体をよじらせた。その隙にクラウスは後退し、応接間にインテリアとして置かれている甲冑から剣を引き抜いた。その柄には、祖母が祖父に贈った飾り紐が吊るさがっている。
彼はするりと鞘から剣身を抜いて、魔獣に向けて構えた。片目を潰された魔獣は、剣を構えるクラウスではなく、エルヴィアナのことだけを見据えている。
(わたしだけを狙っている)
魔獣と対峙し、呪いの痣が疼くのを感じる。テーブルの上のフォークを新たな武器として確保し、距離を取って数歩後ずさる。魔獣は跳躍して、こちらに爪を振り下ろした。その刹那、クラウスがエルヴィアナを庇うように立ちはだかり、魔獣を薙ぎ払った。
「俺の後ろに隠れていろ。いいな」
エルヴィアナはこくこくと頷くことしかできなかった。怖くて足が竦んでいて、どの道一歩も動けそうにない。一方、クラウスは落ち着いた様子で魔獣と対峙していた。彼は小さいときから剣術を学んでいて腕が立つが、実践経験はない。まして、魔獣と戦うのは初めてのことだろう。
(わたしが、力にならなくちゃ)
守られてばかりでいたくない。エルヴィアナはぐっと喉を鳴らして、魔獣を見据えた。また次の瞬間、魔獣が床を蹴って宙に浮き、飛びかかってきた。クラウスは鋭い爪を剣で受け止めた。ぎちぎちという鈍い音が部屋に響き渡る。拮抗状態がしばらく続き、クラウスがわずかに押される。
爪がクラウスの顔に触れそうになるのを見て、エルヴィアナは魔獣の反対の目にフォークを突き刺した。