【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「クラウス様には指一本触れさせないわ」
唸り声を上げて後退する魔獣。一瞬の隙を見逃さず、クラウスは魔獣の首を剣で切り裂いた。
『グァァァッ……』
うめき声が鼓膜を震わす。クラウスの渾身の攻撃を受け、魔獣は光の破片になって離散した。フォークとナイフが、カランと音を立てて床に転がる。光の残滓が完全に消失するのを見届けて、クラウスはこちらを振り返った。
「痣は!」
「!」
原理的に言えば、魔獣が倒されれば呪いは消えるはず。右腕の袖をまくり上げて、呪いの痣を確認する。すると、古代文字のような黒い痣がうごめき始めて、肌から剥がれていく。そして、魔獣が消えたのと同じように光の粒になって消えていった。
(呪いが……解けた?)
目線を上げて、クラウスの反応を窺う。
「――エルヴィアナ」
久しぶりに見る表情だった。澄んだ眼差しに、下がった口角。ずっと、口角が上がりっぱなしで瞳が熱を帯びた甘い顔ばかり見てきたが、この涼し気な表情が、本当のクラウスだ。
落ち着いた声で愛称ではない名前を呼ばれ、魅了魔法が解けたのだと直感した。エルヴィアナにベタ惚れなクラウスは、もうどこかにいなくなってしまったのだろうか。彼は魔法にかけられる前から好きだと言ってくれたけれど、本当に好きなままでいてくれるだろうか。
エルヴィアナはやっぱり、クラウスのこととなると臆病になるし、自信がなくなる。
「クラウス様は……わたしのことが、お好き?」
彼は澄ました表情のまま、こちらを真っ直ぐに見つめて言った。
「当然だ」
ほんの少しだけ上がる口角。とろんとした甘ったるい笑顔ではなく、クールな笑顔だ。
「良かったぁ」
思わず零れる本音。懐かしい彼の笑い方が見られた。本来のクラウスは表情を崩して笑うことは滅多にな――
(あれ……?)
エルヴィアナの安心しきった様子を見たクラウスは、うっとりした表情を浮かべた。魅了魔法をかけられているときと変わらない甘ったるい表情だ。しかしすぐにいつもの澄まし顔に戻ったので、気のせいだったと思い直す。
「怪我はない?」
「大丈夫だ。エルヴィアナは?」
「平気よ」