【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「リジーはいつここを出ていくの?」
「それは……まだ考えていません」
「そう」
ずっとリジーがルイスと結婚して自立することを願っていた。でもいざ別れを意識してみると。いつも傍にいた彼女がいなくなるととても寂しい。
「もしかして、寂しがってます?」
「むしろ、主人の言うことをちっとも聞かない口うるさい人がいなくなって……せいせいするわ」
「ふふ、素直じゃないんですから」
彼女は楽しそうに笑い、結い上げたエルヴィアナの髪に飾りをつけた。
「ここを離れても……ずっと友だちでいてくれますか?」
鏡に映るリジーの顔も、どこか寂しそうで。エルヴィアナはくすと小さく笑い、「当然でしょ」と答えた。
約束の時間ぴったりに、クラウスが迎えに来た。白いジャケットとシャツに細身のスラックスといったカジュアルな装いだったが、彼が醸し出す高貴さは少しも損なわれていない。
すると、主人より先にリジーがクラウスの前に出て挨拶をする。
「例のものは用意してくれたか?」
「もちろんです。ご査収くださいませ」
何かが入った紙袋を渡すリジー。クラウスはあからさまに歓喜しながら、お礼の品物をリジーに返している。
(闇取引の現場?)
二人は悪巧みをする顔をしていて。リジーは口元に手を添えて、悪代官に賄賂を渡す商人みたいな感じだ。エルヴィアナは、目の前で行われる取引を怪しげに見つめる。リジーたちは、ぐっと親指を立て合った。
リジーは何事もなかったようにこちらに戻って来て、エルヴィアナの帽子の紐を顎の下で結んだ。
「リジー……あの紙袋は何?」
「うーん、強いて言えば、『忘れられない思い出』ですかね」
悪い顔をしていた割に、予想外にロマンチックな概念が入っていた。
「は、はぁ」
「楽しんできてくださいね。お嬢様」
エルヴィアナの疑心は、とびきりの笑顔で跳ね除けられてしまった。
「エリィ、行くぞ」
「ええ」
クラウスにエスコートされながら屋敷を出て、同じ馬車に乗り込む。リジーと交換していた紙袋は、馬車に乗る前に従者に預けてしまったので、中身をこっそり覗くこともできなかった。
「リジーから何を受け取ったの?」
クラウスは顎に手を添えて、しばし思いに耽った。
「……『約束』だろうか」
「はぁ」
全く想像つかない。