【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
嫌なはず、ない。本当はずっと彼のことが大好きで、恋人らしいスキンシップだってしたかった。でも、魅了魔法のことが後ろめたくて避けるばかりだったのだ。
「嫌だなんて……言った覚えはないわ。あなたが寂しくて死んだりしないように……仕方ないから、こうしててあげる」
上から包まれた手をひっくり返して、指を絡めるように繋ぎ直す。赤くなった顔を隠すように、窓の方に顔を背けると、隣から「嬉しすぎて死にそうだ」という声が聞こえてきた。
いや、どっちにしろ死ぬのかい。寂しくても嬉しくても死ぬのでは手に負えない。
しばらく沈黙したまま、馬車に揺られた。
沈黙を破るように、クラウスがおもむろに「君の男遊びのことだが」と切り出した。何を言われるのかと思い、固唾を呑む。
「君のことを責めたくはない。だが、俺は婚約者として――いや、君を愛する男として、不特定多数との異性交友を認める訳にはいかない。その点について、君はどう思う?」
「つまり、異性交友を止められるかどうかという話?」
「い、いや、その……君のやりたいことを制限したくはないが、平たく言えばそうだ」
ひどく煮え切らない様子で、こちらに気を使っているのが分かる。
止められるならとっくの昔に止めている。
傍から見たら色んな男を取っかえ引っ変えして遊んでいるように見えるだろうが、実際のところは、エルヴィアナの意思に反して、勝手に惚れられ、勝手に付きまとわれ、勝手に尽くされているだけなのだ。何度拒んでも無駄だった。
「無理な相談ね」
上から目線でぴしゃりと跳ね除け、自嘲気味に鼻で笑う。その姿はまさに、生粋の悪女といった風情だ。
「……そうか」
しゅんと肩を落として意気消沈するクラウス。彼はしばらく逡巡した後、こう切りかえしてきた。
「なら、こういうのはどうだろうか。曜日ごとに遊ぶ相手を交代するシフト制にする……というのは」
「シフト制」
浮気を受け入れた上、限界の限界まで妥協して擦り合わせようとしてくる健気さが、哀れにすら思える。
「これからは俺を構う日を週に一度でいいから作ってほしい。それ以外は他の男でも構わない。だからもう、俺のことを避けないでくれ」
眉をひそめ、捨てられた子犬のような目で懇願されれば、拒めない。
(う……その顔は、反則)
はぁと小さくため息をついた。