【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「食べさせてほしい」
「!」
ひしひしと感じる無言の圧力。エルヴィアナは急な無茶ぶりにぴしゃっと硬直した。まさか彼から『あ〜ん』を要求されるとは。「だめだろうか……?」と甘えるように訴えられて、胸を射抜かれる。策士だ。彼はエルヴィアナが彼のわがままと押しに弱いことを分かりきってやっている。
「ま、全く……世話が焼ける」
照れ隠しにそうひと言前置きして、「今日だけよ」と承諾した。箱を受け取ってクッキーを摘み、おずおずとクラウスの唇に近づけた。
薄くて形の良い彼の唇に意識が向く。食べさせてもらうのを待って口を開けるさまが無防備で、色っぽくて、どきどきする。
「失礼、します……?」
恋人同士の『あ〜ん』にしては、いささか硬すぎる雰囲気。ぎこちない手つきでクッキーを口元に差し出せば、大きな口でぱくっと食べられた。エルヴィアナの指に柔らかい感覚が触れて、びっくりして手を勢いよく引っ込める。
(い、今……指に……!)
初心すぎるエルヴィアナは、目をぐるぐると回して動揺をあらわにした。クラウスが何か感想を言ってくれているが、さっぱり頭に入ってこない。
心臓が騒がしく音を立てているが、悟られないように平静を装って適当に相槌を売った。
本当は何も頭に入っていないが、なんとかリアクションだけしていると、彼はエルヴィアナの顔をじっと見つめて言った。
「次は俺の番だな」
「ええ」
感想を聞く勢いで頷いてしまったあと、クラウスがクッキーをひとつ摘んでこちらに接近してきたのを見てぎょっとする。
(次は俺の番!?)