【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜
「わっ、まま、待って……!」
「なぜ? 承諾してくれただろう」
「ちがっ、」
でもここで、クラウスの唇が指に触れたのを意識しすぎて話をよく聞いていなかったと打ち明ける訳にはいかない。
「……」
クラウスに食べさせるだけでもいっぱいいっぱいなのに。どう断ればいいかと葛藤している間にどんどん彼が迫ってくる。
混乱したまま、言われた通りに口を開けば、クッキーを口の中に入れられた。甘いのか甘くないのか、これがクッキーなのかさえ分からないまま噛む。
「俺のオススメだ」
オススメされてしまった。作ったのはエルヴィアナなのに、誇らしげな顔をして美味いかと聞いてくる。
「おいひぃ……です」
正直言って味は少しも分からなったが、なんとか飲み込んで愛想笑いを浮かべた。
やはり自分はこの人には敵わないなと思う。すると、クラウスはこちらをじっと凝視して、何もかもを見透かしたように片眉を上げて意地悪に笑った。
「ふ。可愛い」
魅了魔法は解けている。そのはずなのに、甘い言葉や態度は変わらないままで、翻弄されてばかり。本来彼はこんなに表情豊かな人ではないのに。違和感を覚えて、恐る恐る聞いてみた。
「クラウス様……まだ魅了魔法がかかっているのでは」
「いいや、解けているぞ」
そう断言しつつ、また不敵に微笑むクラウス。証明のしようがないので、彼の言葉を信じるしかないが、こちらを見つめる瞳は熱っぽくて、瞳孔にハートが浮かんでしまってる。
(こんなの……わたしにベタ惚れしてるみたいで、恥ずかしい)
とうとう目を合わせていられなくなり、エルヴィアナは俯いた。
クッキーの食べさせ合いで消耗したあと、今度はクラウスが渡したい物があると言った。渡されたのは、馬車に乗る前にリジーと交換したあの紙袋。『忘れられない思い出』と『約束』が詰まっているといういかにも怪しげな代物だ。