【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜


「開けてもいい?」
「ああ」

 袋を開けると、一枚の手作りの栞が出てきた。一輪のポピーの押し花が紙に貼り付けてあって、茎の部分が人の指くらいの輪っかになってる。エルヴィアナにとって、よく見覚えのあるものだった。

「これ……」
「……ずっと、取っていてくれたんだな」

 このポピーの花はずっと昔、幼いころにクラウスにもらったものだ。贈り物というにはささやかすぎるものだが、もらったときはとても嬉しくて、押し花にして宝物のように大事にしていた。
 アカデミーの学生だったとき、クラウスと中庭で話していて、彼はたまたま足元に咲いていた花を摘み取ってプレゼントしてくれた。茎が輪になっているのは、指輪に見立てたから。

 クラウスとの結婚は生まれたときからほとんど決まっていたが、二人はそれほど仲が良くなかった。政略結婚はよくあることだし、あくまで家督を守るためだけの関係だと思っていた。きっとクラウスも。だが、この花の指輪をもらったのをきっかけに、徐々に仲を深めていった。

 そんな思い出の品だが、クラウスとの仲が拗れてしまってから、リジーに「代わりに捨ててほしい」と預けたのだった。どうしても自分で捨てることはできなくて。リジーはそれを後生大事に残していたらしい。というか、いつの間にクラウスとリジーはこの花について話していたのだろうか。

「今日はあの日の約束を果たさせてくれないか? エリィも覚えているのだろう。この花を渡したときにした約束を」

 この花の指輪をもらったとき、「大きくなったらもっと素敵な指輪を贈る」と約束したのだった。――お互いがちゃんと好き同士になったら、という条件付きで。

 まさか、数年も前の約束を覚えていてくれたなんて思わなかった。それに、今日連れて来てくれたのは、この栞と同じ――ポピーの花畑。クラウスがこんなにロマンチックなことをするのも予想外で戸惑う。

 クラウスが懐から小さな箱を取り出して、こちらに差し向けた状態でぱかっと開けば、中に花がモチーフの飾りがついた指輪が。中央に宝石が嵌め込まれてきて、その周りに金属の花弁が広がっている。


『クラウス様は知ってる? 異国ではね、婚約や結婚のときに、男の人が好きな人に指輪を贈る文化があるんですって。……凄く素敵』
『なら、いつか俺たちがそういう関係になったら、君に指輪を贈ろう』
『ふふ、待ってる』
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