交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
都心のリゾート地に堂々とそびえ立つ高級ホテル。私一人だったら近づくのも躊躇うようなセレブ御用達のオーラ溢れる建物に目が眩みそうだ。
今日は、そんなホテルの料亭で一織さんのご両親と会食である。
この日のために一織さんと選んだ、レースとリボンがあしらわれたネイビーのドレス。一織さんは同じ色のスマートカジュアルなスーツだ。
一織さんと顔を見合せ、ひとつ頷く。
「行くか」
「はい」
この料亭はもちろん、ホテルに入っているレストランはすべて深山グループが展開する事業のひとつだ。昼間のビル街を望める1番クラスの高い個室は本日深山家のために一日空けてあるそう。
向かいに、一織さんのご両親が座る。深山洋一(よういち)さんと多恵(たえ)さんだ。
一つ一つの所作に品があり、端正な顔立ちで厳しい顔つきに見えてしまうところは一織さんに似ている。
最初に挨拶を交し、再び腰を下ろして食事が始まると、お義父様が口を開く。
「格式張った挨拶などはやめて、今日はお互い楽しもうじゃないか」
「ええ。そうしましょう」
お義父様も、それに対する一織さんも、表情はぴくりとも動かないのだから言い知れぬ威圧感がある。