交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
「ふふ。どうやら一筋縄ではいかないようですね。…深水社長は、愛妻家でいらっしゃるようですし」

「話す気がないのならお帰りください。丸山商事に戻られるようでしたら車を下に――」

「深山社長」

俺が秘書を呼ぼうとすると、彼女が遮って言う。

「では前口上が通じないようですので言わせて頂きますが… 奥様と離婚なさってください」

大方そっち方面の話だろうとは嫌でも予測できたが、その斜め上を行く発言に、眉間に皺が寄る。平然とした態度で嘲笑気味に言ってのける目の前の彼女に対する確かな怒りを押し込めつつ、至極冷静に返す。

「…どういう意味です?」

「そのままの意味です。 ああ、さらに言うと、奥様と離婚したら、私と再婚してください」

今度こそ呆れてさすがにため息が漏れる。

「そんなことを言うためにいらしたのでしたら、やはりお帰りください」

俺が冷静でいられるうちに、と心の中で付け足す。

「冷たいこと言わないでくださいよ。ほら、覚えていませんか?私と見合いの話が出たこと」

少し思案して、そういえばと思い出す。
あの台風の日、会社に戻った後フカミフーズの子会社の常務が、確かに丸山商事の令嬢との縁談を持ってきたことがある。
だが、それは断ったし、もう終わったどころか始まってすらいない話だ。それを今更蒸し返してどうというのだ。
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